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長唄その11 ゆかた会、万歳!

更新日:2021年3月7日

 

みなさんは、ゆかた会(浴衣会)という存在を知ってますか? 伝統芸能の世界では、浴衣を着る夏の時期に、「ゆかた会」と称した素人の発表会がよく行われています。

これ、素晴らしい“古典”企画なんです!

「みんなで浴衣を着て発表しよう」というもので、本格的な発表会と比べると、非常に参加しやすい。ちゃんとした着物を用意したり着付けたりって、どうしても身構えてしまうもの。その点、浴衣なら1枚ぐらいは持っているし、着付けも気軽。体も身軽。財布にも優しい。それに、浴衣の略式感の効果か、場の空気もどことなく和やか。気負わずに「挑戦してみよう」って気になります。発表の合間には、出演者もお客さんもお茶やお菓子で一息つく場面も。ガチガチに思われがちな伝統芸能ですが、肩の力が抜けた感じが、なかなかいいのです。

でもそれだけじゃない!

浴衣だけど、伝統芸能ならではのキリッとした感じは損なわれていないのがポイント。一番は、師匠をはじめ助演に入っていただくプロの方の存在。やっぱりどこか空気の張りが違います。それから、帯はお太鼓で締めたり、舞台は緋毛氈だったりと、ちょっとした要素が少しずつ集まっていて、浴衣によって生まれた緩やかな雰囲気の中でも、凛とした粒が圧迫感なく散りばめられています。そしてもちろん、発表は真剣そのもの。

ゆかた会は、力の入れ加減も、抜き加減でさえも美意識があり、なにせかっこいい。この“ゆるさ”と“キリッと感”の絶妙なバランスがすごく気持ちいいんです。そう、昔から、ゆかた会は伝統芸能を気軽に愉しみたい素人の味方。“古典”が古典になり得るには、ワケがあるのです。個人的には、「ゆかた会推進委員会」をつくりたい(笑)

長唄のお稽古の最後のレポートは、そんなゆかた会の様子です。

 

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コチラ)、また唄を練習し、夜毎酒盛り…じゃなくて打ち合わせをし、「楽しいねぇ~」「もう終わっちゃうんだねぇ~」なんて呑んだくれ…じゃなくてモチベーションを高めてきました。

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そして、まだ夏の匂いが色濃く残る9月某日、いよいよ本番です!この日のために誂え、この夏幾度となく酒場を彷徨った浴衣をいつもより気持ちキ ュッと着付け、白昼堂々、いざ赤坂の街へ。どうやら、雑然とした風景の中で異彩を放つこの黒壁が金龍のよう。なかなかの一見さんお断り感です。壁には「和稽古処」という看板も出ています。こんな場所でお稽古? 楽しすぎでしょー!


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止められないものはしょうがない。ニヤニヤを携えて会場となる2階へと階段に足を掛けると、上から三味線を調弦する音が。倍音フェチの私には、これまた、たまらない響きです…。

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一段ずつワクワクが増して、登り切った目の前には、御簾状の間仕切りに透けて見える、キリッとステキすぎるヒトビトが!! 白と藍の涼しげな浴衣。パリッと締められた帯。きゅっと調えられた日本髪。空気を震わす鮮やかな三味線の音。

このシチュエーション、完全にノックアウトです。もうダメ~!興奮で鼻血が出てないか確認しながら(失礼)、先生方にご挨拶して、そそくさと弟子控室へ逃げ込みます。


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それからは、どうにかこうにか気持ちを落ち着け、帯を締め直し、本番ぎりぎりまで皆で静かに合わせます。

以前メンバーが書いてましたが、長唄の醍醐味の一つはチームワーク。みんなで合唱する“つれ唄い”、ソロで唄う“分け口”、どちらも互いに支え合い刺激し合い、同志となって微動だにせず1曲を唄い上げるのです。本番前、皆の気持ちが静かに纏まっていきます。


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政子先生の満面の笑顔で「できる、大丈夫!」と送り出され、 さぁ、人生で初めての緋毛氈山台、登壇です!

とここからの様子は、メンバーのコメントに委ねましょう!今回私たちが体験した長唄のお稽古、そしてゆかた会。少し長くなりますが、一人ひとりのリアルな想いを通して、みなさんにも妄想体験していただけたなら幸いです。

 
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多くの方がご来場。アットホームな会になりました~。


(ここん新弟子N)

本番直前、ソワソワと落ち着かない私達に、舞台裏で唄の先生が熱心にアドバイスを下さった。私は有り難さのあまり、早くも泣きそうになっていた。

丁寧に稽古してくださった政子先生。何度も励ましてくださる他の先生方。暖かく迎えてくださるお弟子さん達。皆さんにがっちり支えられて、私達は舞台に上がるのだ。そう思ったら、拙いながらもこの一曲をしっかり務めたいと力が湧いてきた。

そして初めての長唄の舞台へ。三味線の音が鳴り「供奴」が始まる。思いのほか舞台の上は安心で、聞こえるのはいつもと同じ周りの音だけ。三味線に支えられて、まっすぐに唄うのは実に気持ちが良かった。

一度「長唄=気持ちいい」と知ってしまった身体はそうそう元には戻れない。出番の後、他の出演者さんの演奏を聴きながら、以前よりも楽しめている自分に気付いてまた嬉しくなった。長唄ファン一丁あがり。先生、ありがとうございました!

 
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発表が終わり、ホッとくつろぎのひと時。


(仮部員 つぼ)

随所に漂う老舗料亭の佇まい。行き交う浴衣姿の生徒さんたち。開演前に舞台を下見すると、赤い毛氈の敷かれた舞台が思った以上に高く感じました。

こんな素敵な雰囲気の中で唄えるんだなぁと感激しきりだったおかげか、リハーサルまでの緊張感はほとんどどこかに押しやられたようです。

本番ではそれほど硬くなることなく、練習どおり唄えたと思います。

ただ、反省点が一つ。初めての舞台に浮かれ切ったせいか、自分の分け口を一つ終えてホッとしたせいか。唄の途中で訳もなくニヤリとしてしまったのです。政子先生から、唄うときは、むやみに動いたり表情を変えないように教えられていたのに!観に来てくださった方々が気付かなかったことを祈ります。

浴衣会からだいぶ日が経ちましたが、今でも供奴をついつい口ずさむ毎日です。私にとって長唄は、唄っているだけで自家発電的に元気が湧いてくる、そんな楽しいおけいこでした。いつも優しく明るくおけいこをつけてくださった政子先生のおかげです。どうもありがとうございました!

 
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数寄屋造りのオトナな空間。廊下さえ畳敷き!


(ここんA)

料亭『金龍』に一歩足を踏み入れると、赤坂の繁華街に居る事を忘れる程、落ち着いた空間がそこにはありました。普段、観客としてお座敷に伺う時の緊張感とはちょっと違う、興奮気味な心持ちで臨む浴衣会。先生に励まされ舞台に上がると、三味線の音やみんなで合わせるタイミングに集中していたせいか、おけいこの時のような程よい緊張感に包まれていました。演奏中も話し声やシャッター音は聞こえてくるものの、舞台上では目線を上げられないので、会場の雰囲気は気配で感じるのみ。曲も中盤というところで、自分の分け口で急にタイミングが狂ってしまい、少し焦る場面もありました。それでも三味線のリードで、何事もなかったかのように唄いきり、ここんの『供奴』が終わりました。

控え室に戻ると、長唄のおけいこが終わった事を実感して無性に寂しくなってしまい、「終わっちゃった…」と、繰り返し呟いていました。それでもすぐに足を運んでくれた友人に、おけいこの楽しさを大いに語っていたのでした。政子先生、長唄の楽しさを教えてくださり、本当にありがとうございました。

 
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発表の後、浴衣のまま懇親会。とびきりはしゃいでカンパーイ!


(仮部員 奈々吉)

期待を寄せた集中力と暖かい眼差しで本番の空間を演出してくださるお客様方。出番前に優しく熱く励まして送り出してくださる先生方の笑顔。客席後方でちょっぴり緊張の面持ちで見守ってくださるお弟子さん達。我々の唄を背後に受けリードしてくださる賛助の三味線方のお二人の背中。そして、緊張しつつも気持ちを合わせてお互いを信頼し唄う仲間たち。ページをめくるその気配。伝わる嬉しさと高揚感。当たる明かり(照明)のきらめきと鮮やかな緋毛氈。これらみんな、浴衣会での心に残る思い出の場面となりました。

会場に来られなかった方々からのエールも有難く、こんな嬉しい感覚を味わえたのも、長唄のおけいこに参加したればこそ。

明るく楽しい政子先生のご指導とともに、まっすぐな気持ちで取り組むここんの愉快な仲間たちには毎回刺激を受け、「おけいこの時間」はとても豊かな時間でした。政子先生、関わった全ての皆々様、本当にありがとうございました。

新たな一歩。踏み出した者だけが見える景色がある。目の前に「道」があるのか、はたまた歩みの後ろに「道」が出来るのか。二歩・三歩と歩みを進めるのは自分自身。

今でもお風呂場でついつい「仕て来いな~!」が口から飛び出してきます。

 
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みなさん、愉快な方々ばかり!ありがとうございました!


(ここんM)

今回のおけいこで長唄に触れるまでは、長唄がどういうものか、その輪郭さえもおぼろげでした。が、9回のおけいこを終えた今、長唄を耳にすれば「あ、長唄だ」とわかるし、僭越ながら政子先生の唄を聞けば「やっぱりうまいなぁ」と、そのすごさが実感できるように。実際に体験することで、こんなにも急速に身近になるものなんだなぁと改めて思います。おけいこをやる前は、自分がこんなに長唄を楽しいと感じるとは思ってなかったなぁ。特に「誰かと一緒に唄う楽しさ」に目覚めてしまったかも。私の長唄シャワーを浴び続けていた8歳児は、鼻歌からツレ唄い、分け口、そしてなんちゃって口三味線までやってのける成長ぶり。おけいこはこれで終了ですが、今しばらく、長唄のある生活を楽しんでいきたいと思います。ありがとうございました。

 
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宗像志功の書。発表会場の片隅で。


(ここんK)

これまで何年か、なんとなく長唄に触れてきたが、いまいち他の邦楽ジャンルとの違いが判らなかった。政子先生に習い始めて2回目のお稽古の後、ふと荻江節と河東節(どちらも古曲)を聴いたら、長唄との違いだけでなく、それぞれの特徴まで聴き取ることができ、そんな自分にかなり驚いた。お稽古という能動的な形で一つのジャンルを少し知るだけで、それを軸に、邦楽の世界が一気に広がった気がした。

今回感じた長唄の3つの魅力。一つは、“分け口”と“つれ唄い”というチームワーキングシステム。合唱があるからこそソロが快感であり、ソロがあるからこそ声を重ねる快感はより大きい。絶対、カラオケより気持ちいい。

二つ目は、唄と三味線の駆け引き。お互い、引っ張り引っ張られ、ついて離れて。一音が永遠のように際立つ場面があれば、他方で、一緒にノリに乗ってグルーヴを刻む。こんなに複雑かつ鮮やかな音楽、愛されないわけがない。

最後は、粋。力を籠める箇所、ふっと抜く箇所、一直線に進む個所、さらりと外す個所、遊び方、遊ばない方。長唄は、唄いながら“粋”を教えてくれる。無くしたくない、江戸の美意識。

政子先生、長唄の世界は衝撃でした。

 

これで、長唄のお稽古は終了です。 今藤政子先生、本当にありがとうございました!

次は、年が明けて長唄三味線のお稽古がスタートします! 入門させていただくのは、お若い頃から“天才”との呼び声高い、杵屋栄八郎先生です。

乞うご期待!

 
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