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篠笛その1 不完全を愛する日本人

更新日:2021年3月7日

様々なジャンルの先生方にお試し入門し、おけいこの様子をつまびらかにレポートする本コーナー、第三弾は福原流笛方の福原寛(ふくはら・かん)先生に篠笛(しのぶえ)を習います!

福原寛先生

福原寛先生


篠笛というのは横笛の一種で、竹でできています。同じ横笛でも、武将や貴族が使った龍笛(りゅうてき)や能管(のうかん)に比べてシンプルな作りで、どちらかというと庶民の間で愛されてきた楽器だそう。 ものの本で読んだのですが、平安時代、横笛は男性が女性を口説くときの必需品だったとか。お目当ての女性の家の近くへ行き、「僕、あなたに会いにやってきましたぁ」とばかりに笛を吹く。相手がその気になるかどうかは笛の腕次第。それはそれはおけいこに励んだことでしょう。 源義経や平知盛などの歴史上のヒーローは笛の名手としても知られていますが、勇敢な上に笛もうまいなんて、さぞやモテたのでは…などと妄想してしまいます。

篠笛をかじったことのある人の誰もが「最初は鳴らないよ~」と脅すので、そんなものだろうと覚悟していざおけいこへ。直接口をつけて吹く楽器なので今回はプラスティック管の笛を練習用に購入しました。構造は写真の通り、歌口を含めて孔が8つあいているだけ。なかなか手強そうです。

教材用のプラ管篠笛(¥1,728)と 教本(¥864)

教材用のプラ管篠笛(¥1,728)と 教本(¥864)


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漢数字は基準の音である呂(りょ)の音を、アラビア数字はそれより1オクターブ高い甲(かん)の音を示しています


教本に書かれている楽譜(的なもの)は縦書きで数字が並んでいます。かまえ方、手孔(てあな)の押さえ方などを一通り確認し、いよいよ吹いてみます。

……まぁ、音は出ません。想定内ではあるものの、つれないわぁ…。しかしそこはさすが寛先生。一人一人のくちびるのあたり方を見て、笛の角度やポジションをチョイと動かす。するとどうでしょう。吹いた息がそのまま音となって響くではないですか!その場にいた全員、すぐに音を出すことができ、初回から「とうふ屋さん」「夜鳴き蕎麦」「ほたるこい」などの小さな曲が吹けてしまいました。うほほーい♪ 篠笛の吹き方の大きな特徴として、タンギングをしないという点があります。そもそもタンギングというのは日本人の体の中にはない文化だそうで、日本人は何も言わずに笛を吹かせると普通はタンギングをしないのだとか。反対にドイツ人などは何も言わなくてもタンギングをしてしまうそうです。詳しくはわかりませんが、これには言語的な影響もあるようです。 学校の音楽の授業で「タンギングしなさい」と口酸っぱく教わり、その癖がついてしまっているので、篠笛では意識してやめないといけません。音が全部スラーでつながることに少し違和感を覚えるのと同様、音程的にゆらぎがあったり、クリアな音質というよりは風がまじったような音色など、音楽の授業で「正しい」とか「良い」とされてきたこととはいろいろ正反対。 寛先生が「日本人が美しいと感じてきたものは、どこか不完全なものなんですね」とおっしゃるのを聞いて、「ああそういうことか」と腑に落ちました。岡倉天心は『The book of tea(茶の本)』で日本人の美意識を表現するとき、imperfect(不完全な) という言葉をよく使っています。吉田兼好は『徒然草』で、「花はさかりに、月は隈なきをのみ見るものかは」(花は満開のとき、月は満月のときだけ見るものであろうか)、と書いている。言葉は違えど、みな言っていることは同じです。伝統芸能のおけいこを通じて、不完全なものの中にある美をとらえる感性を磨いていきたいなぁと思ったのでした。

(ここん管理人M)

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