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小鼓 その4 玄人が素人に与えてくれるもの

更新日:2021年3月7日

数年前、能を習っている友人が発表会に出ると聞いて、初めて伝統芸能の素人会というものに行ってみた。正直、たどたどしい芸が延々と続く“発表会”は、見ているこちらが落ち着かず、あまり好きではなかった。その日も、友人の出番を終わったら帰るつもりで…。 ところがどっこい! これがめちゃくちゃおもしろい! 伝統芸能は、ステージプロである玄人にお稽古をつけてもらう文化があり、発表会も玄人の助演が入る場合がよくある。そんなことは知らなかった当時、舞い手である素人の後ろにずらっと謡と囃子の玄人が並ぶのを見て、驚いた。(贅沢だなぁ~。この人、相当お礼を包んでるんだろうなぁ)なんて余計なことを考えてるうちに、緊張の面持ちで舞がスタート。チョット痛々しい…。いつものように落ち着かないので、若干引き気味で眺めていた。 が…。ん、なんか、囃子がすごいんですけど。。。 素人の発表に、玄人が全力なんですけど。。。 一気に舞台の空気を熱していく。そんな気迫に乗せられて、次第に発表者の顔つきが変わっていく。彼女の「気」が精度を高めていくのが、ありありと見えた。おそらく本人も知らなかったような力が、鷲掴みで引き出されているような。 そこでは、玄人の助演はお膳立てとか華を添えるといった類のものではなく、もう「戦い」と言ってもいいようなレベルのエネルギーだった。鳥肌が立った。丁々発止の空気、玄人の真摯、素人の変化、深みを増す眼差しが本当に美しく、それ以来、素人会が大好きになった。

源次郎先生のお稽古は、そんな空気に満ちていた。 普段は気さくでお茶目でとても優しい先生。それがひとたびお稽古となると、シュッと空気が引き締まる。ポイントポイントで丁寧な説明はあるが、あとは言葉を介さず、とにかく実践で引っ張ってくれる。張り扇でパンパンと拍子盤を打ちながら、1分にも満たない「高砂」を繰り返し繰り返し謡って、私たちの身体にその「拍」を染み込ませていく。 学生の頃ロックバンドをしていた私は、リズム感には自信があった。しかし、小鼓のリズムがとんと掴めない。先生の説明を反芻しながら、何とかついていこうと思うが、わからない。先生のスピードについていけない。焦りからか、暑くもないのに汗が噴き出る。カウントしようと、自分の頭の中に意識が籠ると、「ちゃんと(先生の)手元を見て。自分で勝手にやらない。」と引っ張り出される。勝手にやってるつもりはなかった。でも、先生がその瞬間に与えてくれていることを、全身全霊で受け止めていなかったことに気付いた。 先生は声をからしながらも、腹の奥から出る力強い謡で引っ張り続けてくれる。私達は、頭の理解が追い付いていなくても、手の動きがあやふやでも、とにかく先生のエネルギーの渦に必死にしがみついて、繰り返し繰り返しやる。そうすると、本当に少しずつだが、身体が理解してくる感じがあった。お腹の中で「拍」を掴み、それを手に伝える感覚があった。

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口伝のすごさはここにあるんじゃないかと思う。教える側にとっては、音符なり記号なりが書かれた紙を見つめながら教えるほうが、よっぽど楽だろう。でも敢えてそれを選ばない。1時間とか1時間半の舞台本番を終えた後のお稽古でも、手抜きという選択肢がない。だから、伝わってくるものの密度が圧倒的に違う気がする。受け取る側は(私は)、その場は必死なだけだが、あとから揺るがぬ感動と感謝に包まれる。 源次郎先生が仰っていた。外の世界からは疎ましく思われがちな「師匠・弟子」という関係だが、そこには全人的に関わり合う覚悟が在るのだと。ある、これも伝統芸能の先生が仰っていた。お稽古とは、真心を体感することだと。 煩わしいこともあるかもしれない。でも、やっぱり、なんか伝統芸能が大好きだ。

 
おけいこ最終回はお誕生日が近かったこともあり、ケーキを持参。バースデープレートをかじるおちゃめな源次郎先生

おけいこ最終回はお誕生日が近かったこともあり、ケーキを持参。バースデープレートをかじるおちゃめな源次郎先生


集中稽古を終えて

先人の教えを、お道具を通して学ばせて頂く事に意味があります。 短い期間でしたがお稽古という形を伝えさせて頂きました。 カルチャーセンターなどで技術の切売りの様に勘違いされてしまった時期がありますが、本質を次の時代にも伝えたいと思います。 今回の講座は小生にも良い勉強に成りました。 良い機会を与えて頂き有難うござました。

大倉源次郎

 

★そんな我らの高砂、こんな感じに仕上がりました~★ (仕上がったという状態とはほど遠いですが…)

小鼓のおけいこはこれにていったん終了。次回は福原流笛方・福原寛先生のもとで篠笛のおけいこです!お楽しみに。


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