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旧暦と「女殺油地獄」

更新日:2021年1月24日

放蕩の限りを尽くすどうしようもないダメ男・与兵衛が、借金の返済に困り、親しくしていたご近所の奥さんを殺し、金を奪って逃げる――。 現代にも普通にありそうな事件を題材にした近松門左衛門晩年の作「女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」は、ちょうど今の季節のお話です。

「徳庵堤(とくあんづつみ)の段」の季節は5月。冒頭で「卯月半ばの初暑さ」とありますが、旧暦の卯月は現在の5月頃。今年は4月29日が新月なのでそこが卯月一日になります。「卯月半ば」は、今月の3週目あたりでしょうか。万緑まっただ中の野崎参り。さぞや気持ちがいいだろうなぁ。

その数週間後。「豊島屋油店(てしまやあぶらみせ)の段」では、端午の節句の夜に与兵衛がお金の無心をしにお吉のもとを訪ねます。この時代の大坂では節句は決算期でもあり、物語でもみな借金や売掛金の回収に奔走しています。盆と暮の年2回が決算期だった江戸に対し、大坂はそれに加えて上巳(3月3日)、端午(5月5日)、重陽(9月9日)と5回の決算期があったとか。 主人公の与兵衛も、なんとか今晩中に借金を返済しなくては、と追い詰められ、ついには殺人を犯してしまうんですね…。

新暦ではさわやかな初夏のイメージの端午の節句ですが、旧暦では6月の梅雨時期にあたり、疫病が蔓延しやすい季節でした。 現代でも端午の節句には菖蒲湯に入る風習がありますが、菖蒲や蓬は邪気を払うとされ、薬玉(くすだま)にして吊るしたり、家の軒先に挿したりしていました。 「女殺油地獄」にも「葺きなれし、年もひさしの蓬菖蒲は家ごとに」というくだりがあります。殺されるお吉の家の軒先にも菖蒲の葉が挿してあるのですが、病気で命を落とすのではなく、よく世話をした身近な人間に殺されてしまうという皮肉さが際立ちます。 そんな旧暦の端午の節句、今年は今日から1週間後の6月2日にあたります。

ちなみにお吉をメッタ刺しにし、お金を奪って逃走するところまでしか上演されないことが多いこの演目、今年の大阪での夏休み公演ではその後のお話(逮夜の段)まで上演されます。与兵衛の犯行の全てが明るみになり、場当たり的に生きてきた与兵衛の人生ももはやこれまでとなる。逮夜の段はまだ見たことがないのですが、油店の段までだとあまりにむごくて救われないので、逮夜の段までを見たら印象が変わるかなぁ。ともあれ、上演されることがとても珍しいので、一見の価値アリかと思います。

 

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第3部 【サマーレイトショー】 午後6時開演 近松門左衛門没後290年女殺油地獄 徳庵堤の段/河内屋内の段 豊島屋油店の段/同 逮夜の段

【全席均一】 一般 4,700円 ・ 学生 2,400円 ・ 子ども(18歳以下) 1,900円

公演詳細はこちら

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