Text by ここんM
「越後獅子」に挑戦して3回目のおけいこです。 譜面にして9ページ分もあるこの大曲、全部をやるのは難しいでしょうということで、とりあえず導入部分(約2ページ)と、太鼓地(たいこじ)と呼ばれるサビ部分(約1ページ)、そしてラスト1ページ分ほどを目標に進んでいます。
前回、前々回で導入部分が終わり、今回はいよいよサビの太鼓地。 越後獅子は名前の通り、越後、つまり新潟の旅芸人が江戸へ興行にやってくるという場面が唄われています。導入部分は新潟からはるばる出てきて、「きたァりける」(「ついに江戸へ来たぞー!」)というところまで。 余談ですが、わたくしは新潟出身。唄の旅芸人にシンクロするように、我々の稽古もようようここまで「きたァりける」ってな気持ちで臨んだのでありました。
が、アウェイは厳しかった。江戸にやってきてさっそく迷子です。譜面を凝視しつつ必死についていこうとしますが、音の流れを理解していないのでボロボロ。栄八郎先生から、「譜面を見るとわからなくなっちゃうから、こっちを見て。」と先生の手元を見るように言われます。
いや、先生、無理っす。譜面から目を離したらわたくし、一歩たりとも先へ進めませんっ。 なんなら江戸からもう一度越後へ戻るのも、まったくもってやぶさかではないくらいですが、師匠の言うことを無視するわけにもいかず、譜面から目をひき剥がし、先生の手元を見てその動きを真似ます。 案の定、指は迷い、撥先からは自分の意図とは全然違う音が放たれます。焦れば焦るほどなぜか一の糸のドーンという開放弦ばかりが響く。 が、めげずに続けます。何度かやるうちに一連の手の動きがなーんとなくつかめ、すると譜面を見ても一音一音の連続ではなく、旋律ごとのかたまりが認識できるようになってきました。 しかしその認識は非常にあいまいでふわっとしてて、すぐに不安になってつい譜面に目が行ってしまう。するとすかさず先生から「はい、こっち見て!」と言葉が飛んできます。
こけつまろびつ、先生の励ましにすがるようについていき、なんとか太鼓地パートを終えたところでこの日のおけいこは終了。
さて、その日の帰り道。おけいこの内容を振り返っていると、ゲスト女子Mちゃんがうっとりとした顔つきで言いました。 「先生が『僕を見て!』って言っていたとき、なんかドキドキしちゃった♡」
うむ、確かに先生の演奏姿はカッコイイ。「こっちを見て」が、なぜか「僕を見て!」というロマンティックなセリフに脳内変換されてしまうほどに。 そんなことを思う余裕なぞ1ミリたりともない私は、次はもうちょっとみんなの足を引っ張らないよう、自主練に励まなくてはと自分を奮い立たせていたのでありました。
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