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劇中劇で能に触れる

更新日:2020年12月19日



紀尾井友の会の会員である私の元には、定期的に紀尾井ホールの公演チラシが送られてきます。 その中で、ふと目に留まったのが「紀尾井ホール開館20周年特別公演 邦楽ドラマ 歌行燈(うたあんどん)」。


紀尾井ホールの邦楽公演はなかなかマニアックな企画が多うございます。 その紀尾井が、20周年という節目の年に投入してきた公演。どれどれとチラシに目を通しました。


通常の邦楽公演とはちょっと趣が異なり、泉鏡花の代表作『歌行燈』を原作に、朗読と芝居と能を織り交ぜて上演するとのこと。 朗読と芝居のコンビはわかるけど、そこに能が加わる…? チラシにはそこのところの詳しい説明は書かれていなかったので、とりあえず『歌行灯』を読んでみることに(長いこと「積読」状態でもあったので、ちょうどいい機会と思いまして)。


で、読んでみて、これは能「海士(あま)」の眼目である「玉之段」を、劇中劇の形で見ることができる面白い公演じゃーん!と俄然興味がわいたのです。


『歌行燈』のざっくりとしたあらすじはこうです。 東海道中膝栗毛ごっこをしながら桑名を旅をしている老人二人。二人は、小鼓の名人・雪叟(せっそう)と能役者・源三郎で、その晩泊った旅籠で芸者を呼びます。芸者の名はお三重。彼女は芸者なのに三味線も弾けなければ踊りも踊れない。だけど能の舞なら1曲だけ舞えると言い、「海士」の「玉之段」を舞います。 その舞いがあまりに見事な上、どこか見覚えがあった二人は、「誰に習った?」とお三重に問う。聞けば、かつて破門にした源三郎の甥・喜多八の影が。 喜多八がなぜ破門になったか、お三重がなぜ「玉之段」を教わることになったか。それらのいきさつも同時進行で展開していき、最後の「玉之段」の舞の場面ですべてが一つになるのです。


このクライマックスが小説を読んでいてもっとも震えるところでして、お三重が扇を開いていく瞬間や、彼女の舞にオーバーラップする喜多八、それに相対する名人の芸、座に満ちる緊張感、それらが鮮やかに鏡花の言葉から立ち上ってきます。本公演では、この場面が本物の能楽師たちによって上演されるのかと思うと、ドキドキします。


小説では小鼓と謡だけで舞っていて、「桑名の海も、トトと大鼓(おおかわ)の拍子を添え、川浪近くタタと鳴って、太鼓(たいこ)の響に汀を打てば」と、自然の音があたかも大鼓や太鼓のように響いている描写になっていますが、公演では大鼓と太鼓も入るようなので、この一文を反芻しながら聴くとまた味わい深そう。


「海士」は能単体としても非常に魅力的な戯曲ですが、『歌行燈』の世界を通じてその一部に触れる、味わうという趣向もまた素敵です。


ちなみに『歌行燈』、近代小説なので最初はけっこう読みにくいのですが、途中からその読みにくさを越えて開けてくる世界があります。短いこともあり、読み終えてすぐにもう一度はじめから読み直したのですが、二度目は言葉の一つ一つがさらに味わい深く、バラバラに展開していた登場人物たちの時間軸が絡まりあいながら一つの頂点を目指していく、そのスピード感あるうねりに心地よく乗せられ、ラストへと誘われます。併せてオススメです。


 

紀尾井ホール開館20周年特別公演

邦楽ドラマ「歌行燈」


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2016年3月17日(木)~19日(土)

全席指定 7,000円

チケット発売中

その他詳細はこちら


【出演者】 紺野美沙子(お三重) 瀬川菊之丞(恩地喜多八) 中山仁(恩地源三郎) 野村昇史(雪叟) 村中玲子(女房) 吉野由志子(お千)


坂井音晴、坂井音雅、坂井音隆(能シテ方) 大倉源次郎(小鼓) 藤田貴寛、大倉慶乃助、梶谷英樹、小寺真佐人(能囃子方)

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