本当は秘密にしておきたい公演です。この特別な場所は、なんとなく静かで密やかであってほしい。客席だって、ぎゅうぎゅうに埋まっているより、ゆったりと座れるくらいがいい。 が、「これまで能楽堂で能とか狂言を何度か見たけどいまいち良さが分からない…」という人にこそ観てほしい、かなりの掘り出し物件でもあるのです。 ご紹介するか一瞬悩みましたが、まぁ世のため人のため(?)。
●その場所とは、「代々木能舞台」 ここが、ステキな空間なのです。 昭和初期に個人が建てた屋敷内の能舞台ですが、別棟に設けられた客席が中庭を挟んで舞台と向かい合う構造で、自然の光や風がそのまま入り込んでくるんです。この形は都内唯一(たぶん)。 現代のいわゆる「能楽堂」は、屋根も含めた能舞台が丸ごと建物の中に収められ、“屋根on屋根”が不思議ですが、実はこの形は明治の発明。江戸時代まではもっぱら屋外で上演され、代々木能舞台のような建物も多かったと思われます。 つまり能や狂言は、何百年もの間、自然とともに楽しむ芸能でした。光や風、ときには雨や雷などが様々な演出となって、二度と起こせない唯一のドラマが生まれる。江戸以前の人たちは、そんな風に能の楽しんでいたはずです。 能楽堂での体験が「?」だった方は、この代々木能舞台で、自然の空気の流れる中で、改めて能楽に出会ってほしい。新しい能楽の姿が見えるかもしれない。
ちょいと長くなりますが、実体験のお話。 私が以前、ここでお能を観ていたときのこと。 恋い焦がれ狂女となってしまった女性が、相手を想い優雅に舞う場面で、突然バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨に。強い風と共に雨が吹き込み、当然、客席はざわつきます。でも、怯えるこちら側とは全く別の場所に居るかのように、舞台上は、一瞬も動じることなく進んでいるんです。白く霞む雨の向こうに、ただひたすらに舞う女性。着物の袖は激しく風に揺れるのに、なぜか静かで。やがて、雨の音さえ聞こえなくなって、夢の中にいるような世界が浮かび上がってきたのを覚えています。不思議なことに、能が終わりを迎えると同時に、雨雲も去っていきました。女性の想いまで鎮めるように。
自然の条件下でも、能が動じないどころか、パワーアップする様をまざまざと見せつけられた強烈な体験でした。しかも、代々木能舞台は客席にもちゃんと屋根・壁があるので、野外能のように吹きさらしに煩わされなくてもいい。この舞台が都内でいまだ現役であることが、本当にありがたいです。
●なぜ「掘り出し」? この代々木能舞台で! トップクラスの演者による能と狂言! しかも、前売り4500円! さぁ、どうだ!!(笑)
このラインナップなら、通常は1万円以上してもおかしくありません。能・狂言いずれも、主役を務めるのは、受賞多数の実力派。円熟の芸です。脇を固めるのは、脂の乗った中堅から、将来楽しみな若手。こちらも実力派といわれる面々。
個人的にリアルにうれしい。
舞台は生ものなので、あとはこの陣容が当日どうスパークするか。
代々木の風に、どう吹かれるか・・・。
≪代々木果迢会例会≫ 5月20日(金)18時30分開演 代々木能舞台(最寄りは初台・参宮橋) 能「藤戸」浅見真州 ほか 狂言「清水」野村萬 ほか ※残席僅かのようなので、お早めに!
≪詳細・申し込み≫ ◎代々木能舞台HP(少々見づらいですが、がんばれ…) ◎予約:メールで、即レスしてくれます!
◆ワンポイント ・女性はひざ掛けを! ほとんど座布団席です。慣れない人はきついかも。勇気を出して胡坐で愉しみましょう!ひざ掛けがあればベター。 ・ちょいと予習を! 能の演目は「藤戸」。見た目の派手さはない代わりに、事前にストーリーをちゃんと頭に入れておくと、景色や感情が想像できて、より深く味わえるはず。できれば、セリフ(詞章)を、プリントして手元に持っておくのもよいかも。言葉が少しでも分かれば、舞台が立体的に膨らみます。 ※「藤戸」ストーリー・見どころ:銕仙会HPより ※「藤戸」詞章:能楽ランドより
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