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長唄三味線【最終回】 宴、それは素人の舞台(ステージ)

更新日:2021年3月7日

2016年8月5日 Text by ここんM

かねてより、三味線が弾けるようになったらお座敷で宴会をしながら三味線を弾いたり唄ったり、ちょっと粋がった遊びをしてみたい。そんな妄想が我々にはありました。これまでのお稽古で、長唄の唄をやり、三味線もなんとか2曲弾けるところまできた。

「例の妄想(ヤツ)、実現するならそろそろじゃない?」

折しも、今回の三味線のお稽古では当初から社中(同門の集まり)の発表会がないことはわかっていました。発表の場がないなら、自分たちで作っちゃえ。

三味線が弾ける大きなお座敷を借り切って、 どうせならほかの伝統芸能のお稽古をしている素人弟子の参加も募り、 みんなで各々の芸を披露しあって、食べて呑んで、にぎにぎしく夏の一夜を楽しもう。

かくして開催された芸のある宴。弟子が主体だから、呼称は「弟子フェス」。 その一部始終をレポートします。

★★★

「何事もまずは形から」がモットーの私たち。去年の長唄のゆかた会では、玄人っぽいゆかたを誂えましたが、今年はフェス。ゆかただけじゃなく、もうひと盛りしようじゃないか。 ということで、弟子フェス当日はまず、髪の毛をアップにしていただくところからスタート。銀座G’sの美容師・栢木(かやき)さんは、ショートだろうが刈り上げだろうが、15分あればどんな人でも新橋・銀座風味のヘアスタイルに仕上げてくれるという凄腕の持ち主です。 栢木マジックであれよあれよと実物の2割増しくらいになった私たち。 ちょいと三味線をかまえてみれば、たちまち「あら、どこのお姐さん?」てな風情で(注・当社比)、白地のゆかたも板についたものだわ、とすっかりご満悦。化粧を直し、帯の仕上がりをチェックし、準備万端整えてウキウキと会場入り。

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会場は神楽坂にある割烹・加賀。60畳ほどの大広間に、まずは舞台となる山台をつくります。座卓を並べ、毛氈を敷き、見台を並べると、あっという間に三味線が6人並ぶことのできる、立派な舞台の完成です。 そうこうしているうちに続々とフェス出演者たちも到着。設えた舞台で順次リハーサルや場当たりが始まります。一人一人の集中や高揚感が場の空気の密度を高めていく、この本番前の雰囲気がたまりません。

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お客様がそろったところでいよいよ開演。 私たちの「越後獅子」は贅沢にも唄方に今藤政子先生、三味線の替手(かえで・主旋律に重ねて弾く別旋律のパート)に杵屋栄八郎先生という、最高の布陣で臨みます。スーパー玄人2人×スーパー・ド素人6人の夢の共演。

三味線をかまえ、最初の音である10のツボの位置に指を置き、息を吐いて集中。栄八郎先生の「フッ、ヨーイ」の掛け声とともに、永遠に続いてほしい時間が流れ出しました。 序盤はほんわか弾く…のはずが、すでにもう走り気味。前日のリハーサルで「ゆっくり弾いて」と注意されていたばかりなのに、坂道を転がる石のような私たちの演奏…。

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そして中盤、これまでのお稽古でも、さんざん「ここは特に丁寧に丁寧に。間が詰まらないように」と注意されてきたところへ差し掛かりました。依然として暴走を続けている私たち。栄八郎先生の掛け声が(抑えて、抑えて)と訴えかけてくるように、「ヨーイ」「ヨーイ」と入ります。しかし一度ついたスピードはなかなか落ちない。 目の前で弾いている先生からは、(ゆっくり)のほか、(はい、ここで出て!)(待って)(そのままキープ)(ていねいに)などなど、掛け声、音、気配、リズムを通していろんなメッセージが飛んできます。それを頼りに弾き続ける私たち。そこに政子先生の伸びやかな唄声が重なり、たとえどんなに走っても「ついていくから大丈夫」と絶大なる安心感を与えてくれます。


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そんな中、いよいよクライマックス「晒の合方」の最終段。ここへ来て、先生の三味線が「それ行け!」とばかりに、今度は私たちを煽るように響きました。リードを外されて駆け出していく仔犬のごとく、つたないながらも必死に走り出す私たち。先生の放つ一の糸の低い響きに煽られ、引っ張られ、励まされ、たまらない瞬間を味わいながら、無事「越後獅子」を完走。あっという間の8分間。最後の締めの「チャーン」というひと撥を下ろすのがもったいなくて、弾き終えた瞬間の寂しさといったらありませんでした。

個人的には危うくここで燃え尽きそうになるところでしたが、弟子フェスはまだまだこれから。乾杯の発声とともに宴の始まりです。呑みながら食べながら、誰かの弟子も、まだ誰の弟子になっていない人も、一緒になって目の前で繰り広げられていく芸の数々を楽しみました。 その様子はこちら↓

トップバッターは役者として舞台にも立つ日舞歴10年のN子さん。堂々たる踊りで素人ながら見ごたえ十分!


落語を披露してくれた花伝亭あひるさんは、なんと自作の組み立て式めくりを持参しての参加。


巨匠二人に挟まれた政子先生のお弟子さん。これが宴会の余興とは、ちょっとありえない贅沢さ。


舞台袖でじっと弟子を見守る政子先生。お酒で十分温まっている客席からは、1曲終わるごとに「Wooo!」という歓声が。


小唄を習っているAさんの伴奏も栄八郎先生が買って出てくれました。Aさん曰く、「夢のような一夜だった」。


当日お配りしたプログラムには、各演目のちょっとした解説ものせて、初めての人にも親しみやすくご紹介。客席からもいろんな質問が飛び出しました。


弟子たちを陰で支えてくれるのはやはり師匠。ふと控室を見ると、弟子の使う三味線のチェックをしてくれていました。師匠というのは、本当にありがたい存在です。


ラストナンバー「供奴」の出番を待つ面々。会場のほうでは何やら司会者主導で、とある仕込みが…。


「供奴」はトリにふさわしく、ノリノリの曲。司会者による仕込みもあって、なんと長唄でcall&responseが飛び出すという前代未聞の盛り上がりに…。 会場が一体となって、(唄方)提灯を、つけたり! (客席)消したり! (唄方)ともしたぁりぃ~♪


当日の演目一覧。総勢14人の弟子たちが出演しました!

かくして大盛況のうちにお開きとなった弟子フェス。 「ゆるゆるとひっかけながら一芸を披露しあうって楽しい!」 「お稽古をお休みしてたけど、また再開したくなった」 「FUJI ROCKより楽しかった!!」 などなど、うれしい感想をたくさんいただき、伝統芸能になじみのある人もない人も、芸を披露する側もそれを見る側も、一緒に楽しめる場になったのではないかなとあらためて思います。宴会というベースのなせる技です。

通常、伝統芸能のお稽古には「お浚い会」という、日ごろの成果を発表する場があります。自分の技芸の進度を確認する、いわば中間テストのような存在。ここんも、過去2度ほどお浚い会に飛び入りの形で参加させていただき、お稽古とは違う、きりっとした本番の緊張感に身を置く楽しさを味わいました。

その良さも知りつつ、もっと気楽に、もっと主体的に楽しむ発表の場があってもよいのでは、と今回はその可能性を試した会となりました。社中のヒエラルキーもなく、ジャンルの垣根も超えて、お酒を呑みながら緩やかにお互いの芸を楽しむ。司会者に「なぜそのお稽古を始めようと思ったのか」「その芸能のどこが好きか」などとインタビューされ、そうしたパーソナルなコメントも含めてその場のみんなで共有する。「遊び」の中に発表の場を置くのはちょっと冒険ではありましたが、リラックスして芸能に触れている会場の方々を見て、おこがましいようですが、「弟子フェス」は伝統芸能の新しい発信の場になっていく可能性に満ちてるなと感じました。

「弟子フェス」という名称が「合コン」と同じくらいに一般化して、いろんなところで普通に行われるようになるといいなぁというのが、私たちの野望です。そして、弟子フェスが楽しそうだから自分も何かお稽古してみようかなぁという人が現れたら、もう、望外の喜びです。

最後に、ここまでご指導いただいた上に、細かく相談に乗っていただき、快くご協力いただいた杵屋栄八郎先生、今藤政子先生に、心より御礼申し上げます。先生方がいらっしゃらなければ実現はかないませんでした。ありがとうございました。


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★我らの当日の越後獅子の演奏音源も記念に置いておきます★ 唄 今藤政子 三味線 杵屋栄八郎&ここんの愉快な仲間たち


(※栄八郎先生の怒涛の煽りは6分43秒あたりから)

 

楽器協力:株式会社SEION

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