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日本舞踊その6(最終回) 「お稽古の時間」がない人生

更新日:2021年3月7日

Text by ここんK

人生に「まさか」はあるもんだ。 そもそも、日本なんてつまんないと10代で海外へ飛び出した私が、今こうして伝統芸能を発信する立場にいること自体、まさかの事態。伝統芸能に触れるようになってからも、大股で闊歩し、ダンスフロアで踊り狂う人間。しとやかに歩くなんてできないし、日本舞踊のお稽古をする発想すらなかった。が、出会ったが定め。まさか、惚れてしまうなんて。


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まるで草書体で仮名を描いていくように、強弱緩急をつけながら、一つの所作から次の所作へ切れ目なく動いていく。もはや、自分で動かすというより、自然の動力の流れに乗っかる感じだ。この流れの中で次第に無心になり、瞑想しているような感覚になっていく。これが気持ちいい。自分以外のエネルギーの一部になったようで、こんな感覚を日本舞踊のお稽古で味わうとは思いもしなかった。


30分ほどの基礎練習を終えて、いよいよ踊りに入っても、「流れ」の中で身体を運ぶのは変わらないように感じた。力まずやわらかく、心地いい。すっかり無心になっている私は、わが身も顧みず、自在に16歳の恋する少女や桜の花になっていた。 江戸時代の16歳になるなんて、想像だにしたことない。でも、なんだかすんなりと町娘になってしまうのだ。意中の殿方を見かけて、そそと駆け寄り、「きゃ♡」と袖で顔を隠したりするのだ。ダンスフロアで踊り狂うこのワタシが。我ながら愉快で仕方ないが、同時にこの自由さが楽しくてたまらない。 別のメンバーは自意識を取っ払うのに苦労したと書いていたが、私は、幸か不幸か我を忘れてすっかりその気になってしまう。明日は悪代官になれる気がするし、明後日は老婆にもなれる気がする。変身願望? いやいや、しいて言うなら、ひとり旅でいろんな土地を散歩する愉しみに似ている気がする。


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私の日常にぽっと入り、ぽっと去っていった、深遠で気持ちのいい時間。

「お稽古の時間」が無い人生に、戻りたいだろうか。

 

これにて、日本舞踊のお稽古は終了です。

尾上菊之丞先生、ありがとうございました!

最後に、読者の皆様へ、サービスショット❤



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